栄光の赤い丘わがふるさと パレード@シアター・ドラマシティ 感想文

ミュージカル

ネタバレを含みます

2021年2月6日 パレード@シアター・ドラマシティ11時公演を観劇しました。
正直なところコロナ禍のこのご時世に、どうあがいても気が滅入るようなこの作品を観ることは自分自身にとって賭けであり、チケットを取った自分の責任と言えども観ない選択もできたよなぁ、なんて行きの電車で思ったものです。

観た後は、観る前に、戻れない。
舞台は時間芸術であり、時間の不可逆性には抗えないただそれだけのことですが…
事前に、レオ・フランク事件について調べたり、南北戦争や黒人奴隷について復習していたからか、いやその影響でしょう気が重かった。
しかしこのご時世、今見逃せば次はいつになるか分からない。観るしか、ないんですよ…

というわけで前置きが長くなりましたが感想文です。
ホリプロの公式はこちら→ミュージカル『パレード』

舞台は南北戦争から50年後、20世紀初頭のアトランタ。冤罪をかけられたユダヤ人の物語です。
1862年の奴隷解放宣言のあともまだ続く黒人への差別、南部におけるユダヤ人の扱いとは、そして群衆がいかに群衆として団結していくか…などなど、「人間って思っている以上に、こういうものだったな」と思わせられる描写が続きます。
今を生きる私たちは様々な手段で情報を得ることが出来ますが、それでも人種差別は遠いものだと感じたり、ともすれば自分自身の持つ差別心に気づかないまま日々を送ってゆくこともあるでしょう。
パレードを観劇して、無意識下のそれに気づいてしまい、鉛を胃にいれたような気分になりながら劇場の席を立ったのでした。

以下キャスト別とか色々。

石丸幹二さん/レオ・フランク
自身の在り方に何の疑問も抱いてないユダヤ人だった…レオの中に差別の気持ちがないわけじゃなくて、自分はそのポジションであるということに疑いを持たない振る舞いそれこそが…みたいなね。
名前の綴りも知らない女の子の冤罪かけられてから最期を迎えるまでのグラデーションが素晴らしかった。だんだん人間として色がついてゆく感じ。最期を知りながら観るものとしては、祈る気持ちになった。
噓の証言のとこもレオが演じてるけど、明らかな悪者仕草させられてるの。あれって本当のことじゃなくて、でもみんなが信じればレオは悪者になる。胃が痛い。
あの場にいて私は旗を振る側ではないか、ルシールと同じように寄り添う気持ちは持てるのか自分に問うた。

堀内敬子さん/ルシール・フランク
最初のほうの、落としたピンをメイドに拾わせるのは当然という振舞、南部のユダヤのお嬢さんなのだなと思った。
もちろん噓の証言させられたメイドに寄り添う仕草はあったし、そうなれば「気の毒に」と思うのでしょう。その仕草と、奥底で思っていることは別なんだろう。わかるか、気の毒にと思う心を持つことと、差別心がないことは、別だ。
一幕では夫に良く従う妻の様相を感じられ、二幕はルシールが強くたくましい女性に見えた。
残されたものが喪に服し嘆き悲しみながら弱弱しく一生を終えるのではなく、きっとルシールは背筋を伸ばしてたくましく生きていったのだろう。そう思えることがこのパレードという作品の救いと感じた。

武田真治さん/ブリット・クレイグ
風見鶏のチャラい奴か?どうせ煽るだけ煽るんだろ…と思いきや案外まともな人の心があるんだな…と思った。まともな人の心ってなんだよって話ですが…
クレイグは新聞記者として人々の扇動に加担したような立場ですが、一幕の裁判以降はルシールに協力的な姿勢が見えます。
何かに違和感覚えて扇動から降りる方向になったんだろうけど、扇動は彼を解放するのかな…なんて。現代のSNSでは扇動者が扇動から降りたらまず袋叩きですね。
動き出したら止まらないこの群衆の中で、降りることは勇気が要っただろう。

坂元健児さん/ジム・コンリー
いや待って怖い怖い怖い怖い…自分がワルだってわかってて、平気で噓をつく。出した舌、私には見えたぞ。
マジモンの匂いがする犯罪者でそりゃ前科もありますわな…登場するたびに悪い予感がしてゾクっとなった。
特に二幕の刑務所のブルース:土砂降りの中で。歌が聞こえてからの気味悪さ、あの嫌な感じ。
この事件の真犯人はジム・コンリーだったとのことだけど、多分、メアリー・フェイガンでなくても、誰だって良かったんだろう。そこにいたから、殺せたから、メアリー・フェイガンだったってだけなんじゃないか…
狂気の前ではすべてが遣る瀬無い。

安崎求さん/ニュート・リー、老いた兵士
まずは老いた兵士としての感想。いでたちと、眼光鋭い凄みのある目付き、もうそれだけでたじろいだ。
樹をバックに立つ姿だけで、南北戦争はまだ終わってなかったんじゃないかと錯覚する。いや老いた兵士の中では続いているのかもしれない。そして…南部の人間としてあるべき振る舞いをやった。
そんな圧の強いお役からニュート・リー…最初に冤罪かけられてて気の毒に見えた。多分ねえ、ヒュー・ドーシーの中では「こいつに罪をかぶせても面白くない」みたいなところ、あったんでしょう。黒人は犯罪をするっぽいなとかその程度の動機で冤罪かけられたんじゃないか、そして面白くないハイ次みたいな感じでレオだったんじゃないか。
もうこれ、誰でも良かったんじゃないですか…つらいなあ。

未来優希さん/フェイガン夫人、アンジェラ
フェイガン夫人としての悲嘆に暮れる歌声と、吐き捨てるような「ユダヤ人」の一節。
どちらも人間の振舞としては分かる、だからこれ、あの当時の南部の話なんだってわかる。
ヒュー・ドーシーが煽った世論の中に彼女を突っ込むの、相当の悪手ですよ…ドーシーに煽る意図はなかっただろうけどね。
二幕のアンジェラとしての歌声、ブラックフェイスでない演出だけれど色濃く南部と黒人を感じた。あの歌に一瞬「草競馬」出てくるけどミンストレルソングだしね。
はまこさんもまたバズーカヴォイスなので、そこに込められた威力が強かった…

内藤大希さん/フランキー、若い兵士
冒頭、老いた兵士と若い兵士が交差するとこ、「ふるさとの赤い丘」情景が見えた。
純情なフランキー、メアリーを失って悲しかったね、憎い敵は討ってしまいたいね。それが正しいかは自分じゃなくて皆が決める。関わった、皆が。
いつの時代も、若者を扇動する感情は憎しみなのだろう。その憎しみが本当かどうか、憎しみの前にあった感情も、本当にそうなんですかね。
記憶は都合よくすり替わり嘘は本当になり本当は嘘かそれ以下になり果てる。それでも人は本当と信じ正義だと思ったものに突き進む。
気の毒なフランキー、君は君の正義を、果たす。
それにしてもみりんぼしさん上手いね…彼でフランキー観れてよかった。

福井貴一さん/ローン判事
中立ぽい挙動してるけどこの人めっちゃ保守じゃない?中立に見えるものこそ疑ったほうがいいよ、と思う役作り。
事なかれ主義ではないんだけど、釣りのところ、なるほどね…という感じでした。
釣りのところ二人とも仕草が上手い…
淡々と粛々とその勤めをやるローン判事にとって、この事件はどうだったんだろうなぁ。
(ここまで書いてて、自分の感じ方が全て疑う姿勢になったなと思うのです…)

今井清隆さん/トム・ワトソン
トム・ワトソンもまた、彼の思う正義をやっていた。
愛国心が憎しみに化けたのか、いや憎しみなんて存在せず純度の高い愛国心で回していたのか。愛国心を盾にして内に湛えた憎しみや憎悪、ユダヤ人に向けたものが冷たく見えた。
スレイトン知事夫妻を追い出した民衆の感情の味方をやってたわけだけど、彼の思う正義はそれを望んでいたのだろうな…
ところで、なんでメアリーの棺の傍にトム・ワトソンがいるんですかね…あそこめっちゃ怖いんだけど…
キーヨの歌声、説得力があり好きです。

石川禅さん/ヒュー・ドーシー
その辺にいる人、悪意のない人、出世欲のある人。
分かりやすいド悪人ではないけれど、自分の中に秘めた欲が結果的に悪いなあって感じ。無意識のもとの嫉み、僻みを欲で押し出したヒュー・ドーシー。スレイトン知事の妻サリーにお世辞(でも実際そんちゃんは美しいぞ!)を息を吐くように言うの。サラッと言えるのもそういう下心で、出世欲がその裏にあって。
ニュート・リーじゃなくレオに冤罪かぶせたのも貶めようとかじゃなくて、そのほうが自分に有利だから、みたいな…
考えれば考えるほど、これ、犯人誰でも良くて、レオはユダヤ人排斥の犠牲になったのだと思う。
石川禅さん大好きで、ガッツリ悪役として見るのはこれが初めてかな。
上手いのはもちろんたたずまいとか唯一無二のものだからこれからも観続けたい。贔屓目です。

岡本健一さん/スレイトン知事
人間らしさだ!!!!!恩赦本当によかった…てなった。
群集心理に負けず正しさを求めやっていくことは自分のためにならないと分かっていたのだろう、それでも、やる。
二幕のパーティーでルシールに事なかれな振舞やるけど再捜査やるのよかった…
あの当時の南部で、ユダヤ人の側につくことは危険だったと思うけれど、物語の良心としてスレイトン知事と妻のサリーがいてよかった。
パレード自体にいい人も悪い人も存在しない(※ジム・コンリーは極悪人として存在するので別)けれど、史実に良心があり人の心があり…と思うと血が通った物語だ。結末はアレですが…

宮川浩さん/ロッサー弁護士、ライリー
宮川さんこんな体格だったっけ?とロッサー弁護士に思うなど。あてにならん弁護士だ…史実の弁護士もこんな感じだったのかな。ルシールのほうが何倍もあてになる。
ライリーとしての歌声がゴリゴリに南部ではまこさんに負けず劣らずでよかった。当時の南部は「こんなもん」だとよくわかる。

あとは要所要所アンサンブルとして立たれてるのだけど上手い。アンサンブルが上手い舞台は良い。
宮川さんもマリウス経験者だしこの作品マリウスだらけですね。

秋園美緒さん/サリー
凛と美しい、スレイトン知事の妻サリー!ヒュー・ドーシーのお世辞を物ともしないサリー!
妻はこれくらい強くなくてはということなのかしら。スレイトン知事の妻サリー、レオ・フランクの妻ルシール、どちらも力強く現実に立ち向かっていった。
そんちゃんの佇まいは気品があり良いですね。

飯野恵さん/ミニー
黒人のメイドは誰からも立場が弱い…ルシールが味方に付くように見えたのは救いか。
誓約書書かされて、嘘の証言させられて、でもそもそも読み書きが出来ないっての、おそらくはその当時の黒人メイドではおしなべてそうだったのだろう。読み書きが出来る黒人は(メイドは、じゃないんだなぁ…)重宝された、というのを読んだことがある。
そうするしかなかったという遣る瀬無さ、しんどいね。怯えた目が物語る。

熊谷彩春さん/メアリー・フェイガン
Phで始まるフェイガン、レオ・フランクからあんまり認識されていなかったフェイガン、かわいそうなメアリー・フェイガン。
可愛くて素直で純粋なメアリー、どうして殺されなきゃならなかったんだろう。なんのために殺されたのか…意味もなく殺されたんですか?つらい。

熊谷さんてあんなにかわいらしいのね!とか思いました。ただただ純粋でまっすぐで、砂糖菓子みたいなメアリー。

石井雅登さん/アンサンブル
看守!ダンス綺麗!お芝居細かい!
これまで意識して観ていなかった方だけれどこれは注目しちゃうね。
スターンズ刑事って雅登さんかな、怖いね…

白石拓也さん/アンサンブル
石井さん・白石さん・渡辺さんでダンスシーン多いような。
白石さんには陽のオーラがあるけど、陽の者が扇動に加わると怖い…なんだろう陽の者=普通の人、みたいに思えて、旗を振る様子が自然で…裁判のとこで睨みつけてるのもまた普通の群衆という感じがありました。

森山大輔さん/アンサンブル
二幕の看守!二幕のピクニックのところ、拍手の隙も与えられない張り詰めた場面展開の中、唯一緩む場面の看守されてます。
しかしそれ以外の場面、旗を振る群衆とか裁判のとことか普通に怖い。
(ビリー・エリオットの印象が強い方です)

渡辺崇人さん/アンサンブル
おひげつけてるー!!!あのしゅーとくんが!というオタク目線を最初にかましてしまった…
しゅーとくんはラカージュで知って、ダンスがきれいな方です。お若いしパレードにどうだろう…?と失礼なことを思っていたのだけれど、群衆として、あの場に息づいていてよかった。

水野貴以さん、横岡沙希さん、吉田萌美さん/アンサンブル
まとめての感想でごめんなさい。
すごい、ちゃんと少女に見える。工場で働く三人娘。三人娘は軽薄に見えるけれど、まだ10代前半のお嬢さん方に真実を言わせて群衆と対立させるのも酷な話よな…噓の証言してるのも、なんだろうたぶんすんなり受け入れてたんじゃないか。だってメアリーのためだもの、その時点で嘘は本当だから。
二幕で嘘かもってなったときにピューっと散るのとか、まあ、そうよね…娘さんたちにしてみれば…

というわけでつらつらと書きました。
レオとルシールのピクニックの場面とかめちゃくちゃ泣いたけれど「どうしてこの二人がこんなめにあわなきゃならないんだろう?」と思うとき、いやでも南部のユダヤ人で上流階級でメイドいて当たり前の立場やん?ということはわきに置かれるのよね。人は都合よく見るよ。
それでも夫婦愛の物語で、史実で、人は弱くて、群衆になる物語だと思う。

今日はここで時間切れ、また書きます。

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