あらゆる支払いを済ませて、あるいはメリー・ポピンズの感想文

ミュージカル

重い腰を上げようやっと、大好きなミュージカル「メリー・ポピンズ」の中で自分が一番気になって、書きたかったことを、書きます。

これは私の感想文です。ですから、他の人と観点が違うかもしれません。そう思う人もいるんだな、と思ってください。と前置きしたいくらいには、自分でも今回はここにひっかかったんかい!と思ったこと。

みりんぼしロバートソン・アイピエエエエエエエとかどっちのバートもいいすね…とかメリーとバートは付き合ってないのがいいんだよぉとかオタクの沸き方を永遠にしてたんですが、メリーの傘も買ったしこれで飛べるんですが、それはさておきです。
アンサンブルの枠を追いかけそうになっていましたが大阪からみたのである意味セーフです。本当にそうか?そうです。アンサンブルの枠は永遠に追いかけるしスウィングの話が大好きです。

…それは、さておき。今書きたいことを書く。

ジョージ・バンクスという男性のかわっていく様がこの作品の中で一番好きです。
夢みたいな演出の数々、メリーの人外感と引き際、人は魔法によってではなく自分の力で変わるのだ、と気づかされること。ジョージもまた自分の力で変わっていった一人です。

ACT1のチェリー・ツリー・レーンでのジョージは、いかめしく家族の前に立ち、「規律 秩序 それが一番 家庭の切り盛り楽なはず」とケアワークに関心を持たず(メリーが綺麗なことには反応してたけど…)、ウィニフレッドに子供のことは押し付けているし、家庭に関わらないようなそぶりにも見えました。
ジョージが銀行で働いている間子供たちは公園でお散歩してエリザベス女王にご挨拶したりネーレウスに会ったりするわけですが、ジョージの関心は銀行でのことに向きっぱなし。

そこを少しずつ崩していくのが、メリーの提案した銀行訪問でのこと。投資するのはいいアイデア(ヴォン・ハスラー)に対してか、いい人(ノースブルック)に対してか…でいい人を選べたのが少し変わるきっかけになってたのがいい。目先の金をとらなかったのがいいんだよ。

銀行から給与なしの定職を告げられてから子供たちに強く当たるところ(ジェーンとマイケルが交互に鞄隠して渡さないところ)の怒り方が「仕事をすること」が男の役割で、それを奪われての落胆に見えて辛い…
その後の、父親の役目は「あらゆる支払いを済ませること」がなんか…もう…家父長制すぎて…その役目を降りて家族に向き合えたらどんなにいいかと思うけれど、メリーが風を吹かせなければどうにもならなかったことともいえる。

さて、ジョージがそうした「あらゆる支払いを済ませる父親であるべきという男らしさ」を背負った背景にいるのは…ジョージのナニーをやっていたミス・アンドリューの存在があるわけですね。おしゃべりの店でのジンジャーブレッドクッキーのお星さまをミス・アンドリューから隠して、実利を優先して生きて今があること。
(ミス・アンドリューがいなくなったあとのリアクション、駒田ジョージも山路ジョージもかわいかったね)
ミス・アンドリューのように封建的で自由がなくて自分で考えさせなくてしばりつけるような教育を受けてたりゃそりゃ…お気の毒ですよ…本当に…。

(※尚、「あらゆる支払いを済ませること」からの解放は、メリーが「御給金は貯めておいてください」で万事解決したので、メリーのおかげですね。)

バンクス一家の前からミス・アンドリューは消えたし、家宝の壺が割れたことで、壺の中に隠していたジンジャーブレッドクッキーのお星さまを見つけたことは、家族と向き合い正直に生きるきっかけであり、すなわち「あらゆる支払いを済ませる父親であるべき」から降りるきっかけでもあったのがすごくいいと思ってる。
お星さまを見つけたときの顔、子供時代に戻ってるし、頭取の前で成功の秘訣聞かれて「スーパーカリフラジリスティックエクスピアリドーシャス!」と答えたときの開放感ある表情すごいよかった、私もそう答えたい。人生はスパカリ。

メリー・ポピンズの時代もだし、下手すると今の日本でも、いや日本だけじゃないか世界のどこかではミス・アンドリューみたいなやり方、毒消しの薬を無理やり飲ませて矯正させるようなのが好まれるのかもしれないけれど、人は自分で考えて自分の力でよくなっていこうとするのが良いのだよ…メリーは魔法を使うけれど、家族のことをよくするためには魔法つかってないからね。バンクス一家が自分で考えて行動して、最後メリーが飛んでってバンクス一家が星空を見上げてるってのがいいんだよ…

と、メリー・ポピンズは「あるべき姿」を降りたお父さんがいいよっていう雑な所感でした。あとは大体枠を追って公園をお散歩してスパカリで飛んでるカテコ撮るのに必死でしたってことにしときたい。しかしメリポピはもうちょい喋りたいし永遠にしゃべりたい演目ではある。訳詞の良さとか衣装とか大好きなお姉さんがアンサンブルにいますとかさ…ネーレウスの「またね」「絶対ね」のやり取りとか…細かい台詞の端々まで大好き。メリーとウィニフレッドの関係もそうだな、「母親かくあるべし」から降りて楽しく生きること、パートナーのジョージと向き合うこと、子供たちと向き合うことのやり直しを進めててよかった。でもジョージが先に降りてくれないと実現しなかったよね~と思うので、ほんとメリーありがとう。私のところにも来て。

それでもね、お別れはいつもほろ苦いものだから…さようなら、メリー・ポピンズ2022
また会える日まで!

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