激動の20世紀 ラグタイム2023感想文

ミュージカル

チャレンジングかつ世に必要とされる作品が、また一つ日本で上演されました。
2023/10/7大阪公演マチネ、2023/10/15愛知公演(大千秋楽)を観劇していました。
自分と演目の境界を溶かすような見方、自分の引き出しを観ながら開けて物を入れ替えたりみたいなのを頭の中で行いながら観るので、差別と階層とそれでも前を向いて生きていくこと、何かに希望を見出すこと、は刺さったりしんどかったりで、相変わらず現在地の確認となりました。あっ東啓介くんの全てが好きかも…(突然ベクトルの違う話をするな)

ラグタイムがどんな話か公式から引用したあらすじを貼ります。

ユダヤ人のターテ(石丸幹二)は、娘の未来のために移民となり、遠くラトビアからニューヨークにやってきた。黒人のコールハウス・ウォーカー・Jr.(井上芳雄)は才能あふれるピアニスト。恋人のサラ(遥海)は彼に愛想をつかし、二人の間に生まれた赤ん坊を、ある家の庭に置き去りにしてしまう。赤ん坊が置き去りにされたのは、裕福な白人家庭の母親 マザー(安蘭けい)の家だった。偏見を持たず、正義感にあふれるマザーは、夫のファーザー(川口竜也)が長く家を不在にしている中、赤ん坊を拾い上げ家に迎え入れる。マザーの弟であるヤンガーブラザー(東 啓介)は生きがいをもとめる不器用な若者。アメリカ中の注目の的である美人女優のイヴリン・ネズビット(綺咲愛里)に愛の告白をするが、イヴリンは公衆の面前で彼にキスをしておきながら、その後すぐに軽く拒絶する。

ターテと娘はニューヨークに着いてから貧しい生活が続いていた。やがて同胞の女性アナーキストであるエマ・ゴールドマン(土井ケイト)、奇術師にして“脱出王”の名をとどろかせていた、ハリー・フーディーニ(舘形比呂一)と縁を結ぶことになる。

サラの愛を取り戻すため、マザーの家に身を寄せる彼女の元に通い詰めるコールハウスは、今や“ラグタイム”を奏でるピアニストとして世間で注目され始めていた。ヘンリー・フォード(畠中 洋)が世に送り出したT型フォードを買うことができるくらいまで稼げるようになったが、黒人を蔑視する白人たちに車を破壊されてしまう。そんな中、教育者、作家として啓蒙活動を行う、ブッカー・T・ワシントン(EXILE NESMITH)のように、社会に影響を与える黒人も現れ始めていた。

自らの正義と、生まれたばかりの息子の未来を守るため、差別に立ち向かおうとするコールハウスではあったが・・・。

日生劇場 ミュージカル『ラグタイム』 STORY

衣装と区別と

今回、裕福な白人家庭は白の衣装、黒人はカラフルな衣装、移民はグレーの衣装で、ブラックフェイスを用いず人種の違いを表現していました。それはかえって視覚的に区別が分かりやすくなっていて、それはそれできついものがあるなあと。サラを逮捕する警察官が白衣装なのとかね…特権階級が黒人に向ける眼差しがわかってしまい。
とはいえ、ブラックフェイスは侮蔑の表現ですから、この作品には相応しくないでしょう。劇中で、ミンストレルショーは侮辱だという台詞もありました。
「そんなこと言われたって、黒人の役だって顔を黒塗りしないと分からないよ、日本で上演するんだし」は特権的な考えで、でもその特権に気づけないほうが楽なのかなとは、思います。この一文の中にも特権キーワードをいくつかいれたが果たして。
ポリティカル・コレクトネスで尊重されているものは何かを考えぬままポリコレ棒って言えるの羨ましいなとか思うこの頃です。

思いついた順の好きなとこ、心に留まったところ

思いついた順に感想を書きます。名前が挙がるのは特によかった人な感じがする。
オープニングで階層と人種が描かれ、エマ・ゴールドマン、ハリー・フーディーニ、イヴリン・ネズビットが少し浮いた感じで出てくる。三つの階層がラグタイムのリズムで動いていくのが、この作品であり、この時代であるというのをオープニングで象徴していて良かった。

で、オープニングから早速好きな台詞が出てくるんだけど、
「こんな国大嫌いだ!」
オープニングのエマ・ゴールドマン登場台詞がまず刺さったけど、エマ・ゴールドマンはフェミニストでアナーキストで、劇中ではだいぶかっこいい存在に見えた。フェミニストでアナーキストの女性の活動家が明示的に出てくる作品もあんまりない気がする。
エマ・ゴールドマンはヤンガーブラザーを運動に飲み込むあたりすごい好き。それよりさ、冒頭でとんちゃんヤンガーブラザーがラケット持ってるからテニスするのかと思ったらしなかったね。テニスできる階級は裕福な階級だったんだろうけど。
あーちゃんイヴリン・ネズビットがとっても女優で、多分今できるのってあーちゃんくらいではないか。(イヴリンのブランコの安全帯の着脱なども見ていました。)
イヴリン・ネズビットの衣装、BW版の資料探してたらジークフェルト・フォーリーズ風なのもみたけど、今回日本版ではこの白ドレスで正解だったかも。ジークフェルト・フォーリーズの年代とイヴリンが生きた時代は重なるけど、あんまりやると要素が多すぎる。

リトルボーイに名前があった気がする…思い出せない。リトルボーイは幕開けから時代背景を説明する台詞を喋る重要なポジションです。男児が環境起因でミソジニーに染まるのがなかなかきつくて、「女は家にいろってお父さんが言ってた」「女は楽でいいな」(これはうろ覚え)とかなんかインターネット弱者男性みたいなこと言ってて、はい…何をどう教えたらそうなるんやろうなと思ったけど、ファーザーが毎日そうしたことを言っていたんでしょうね。その環境でよくマザーはやっていけたな。マザー自身結婚したことを後悔してるようなことを歌ってたし…ファーザーは家庭に向き合ってこれなかったしね。野球場連れて行ったけど治安悪くて辟易して、最後リトルボーイが痰吐く?とこファーザーの帽子にあたっててわらった。野球場の場面は全員治安悪くてよかったです。
話が逸れた、で、ファーザーの家庭の中でヤンガーブラザーが息が詰まるのもわかって、イヴリン・ネズビットに懸想して告白して振られて、運動に流れて…になるんだな。女に懸想するとんちゃん好きかもしれん、あーちゃんイヴリンの「ご褒美あげなきゃ」でアーーーーーー!となって◜ω◝はい…でも貧乏で痩せたいい人は好きにならない、でふられてましたね…とんちゃんとあーちゃんの並びは絵になっていいな。

ファーザーとロバート・ピアリー提督が、ターテの乗った船(ユダヤ系移民の乗った船)みて「きっと(移民たちは)愛国心を持った人間になるだろう」とか言ってるのキッツ…でも特権を持った人たちはアメリカが成功の国だと信じて疑わないのがよくわかった。上から下への眼差しで、成功だけを決めつけていて…それでも分かり合える時があった、はコールハウスが死ぬ前の場面で描かれていて、この作品の希望ではありますが。

アンサンブルいい仕事でしたで賞は全員ですね、アンサンブルみんな黒人・白人・移民やってて、コールハウスに乱暴した次の場面でコールハウスの味方だったりするし。
仕事として演じてるだけとはいえ、演技は感情をともなうから切り替えが大変だったと思う。名古屋大楽でも井上芳雄さんからアンサンブルの方々に労いの言葉があった。

見ててきつかったところ

フォード破壊一択。
初見よりも、フォード破壊がどのように行われるか、誰が破壊するかが理解できている二度目のほうがきつかった。
ちょうど観る前に食い尽くし系の話をしていて、食い尽くし系が食べてるのは食事じゃなくて相手の尊厳だから食べ物を新たに用意されてもどうしようもねえのよ…とか言ってたから、もある。
ウィリー・コンクリンからすれば、黒人のくせにフォードなんて鼻持ちならねえ、わからせてやろう、というところだったのかもしれない。そしてそれは誤った行動とはされていない。消防団をやる白人は移民が多い、もタイムラインに流れていたな、移民と、アングロサクソン系は扱いが違うから…
だから、あの場面で破壊されたのは、フォードと尊厳であって、だからコールハウスは戦ったしサラもまた…なんだけどね。

このフォード破壊までわかりやすくなくとも、他者を尊重せず尊厳を破壊することは未だ繰り返されている。

泣かせにかかったところ

サラの死後テロリストになるコールハウス(メインテーマと同じメロディで「正義をわからせてやる」と歌うのが苦しい)、ヤンガーブラザーがコールハウスの一味に加わるところ、そしてコールハウスの死。
融和で白人社会の中にあろうとするワシントンと、正義を分からせようとするコールハウス、ゴールは同じでもなくなっていてしんどい。コールハウスはワシントンを尊敬しているのが分かる台詞が一幕、サラと話すところであったから、余計に。正論で人が死んで自分の尊厳も救われないならそれはそうよ…

ヤンガーブラザーはだんだんファーザーと折り合えなくなってきて、エマ・ゴールドマンの運動に加わって、そしてコールハウス側につく。
でもハーレムに乗り込んだとて仲間とはみなされず、サラの墓地に行ったのか!とか黒人たちに詰められて、それでも振り絞るように「行きました」っていうとこ本当にな…とんちゃんはこういう芝居いいよな…
マザーの家でコールハウスと接点があったとはいえ、裕福な白人と黒人のテロリストだし、階層が違う。違う中で共闘する動機って利害関係だけじゃないよなと思った場面。

二幕最後のほう、コールハウスが立てこもった図書館で人質交換のとこもしんどかった。
ヤンガーブラザーの「フォードが戻ればいいって言うのか!」に対してぶつけられるコールハウスの「尊い命が犠牲になってもいいのか!」が、人間の信じる力を表しているかのようで。
人質交換でヤンガーブラザーと銃持った黒人が出ていって、ファーザーが残ったところも、希望を信じたい力を振り絞っており…
コールハウスが殺される前の「やっぱり殺されるのかな」の一言の陰よ…ファーザーは性善説で善性の強い人なのかな、彼は彼の正義を通したかったんだろうな、「そこにいる人は皆ちゃんとした人だ」(うろ覚え)そしてファーザーから握手をするの、結末わかってるとつらいよ。
ファーザーが向き合ってこなかった家庭、家族、守るべきもの、はコールハウスにはあって、だから殺される前の「子供のことを聞かせて欲しい」で「あの子はいい子だ」しか返せないファーザー…てなったし、でも振り絞った答えがそれなんかなあ。
ファーザーは人々の善性を信じているから、コールハウスが図書館から出ても安全だと思いたかったし、でもそうじゃなかったし。そんなことあるかよって結末だけども。

残された希望について

ターテとマザー、そして最後のリトルコールハウスは希望の象徴なのでしょう。
ターテは娘に汚い記憶を消させていい暮らしをさせてやりたい一心でお金持ちになったし、多分そう思って来た移民は多かったはず。そしてそれが叶えられたのは一握りで。
ターテとマザーの楽曲は穏やかで、この作品で唯一の安らぎのようで。
激動の20世紀の中、ターテとマザーの未来が温かいものであればいいな、と思う。特にターテは映画監督になるまでに困窮した暮らしを送ってきたのだから。

楽曲について

これは知識じゃなくてギミックの話で、コールハウスの歌で全音で進めても違和感なさそうなところに半音混ぜて、イイネ!と思った。半音が混ざると挑戦的な感じがしてよい。人となりを表すギミックが分かる時楽しいね。

ラグタイム全体的にオーケストラも歌も素晴らしい!けれど、個人個人の素晴らしさとは別に、正しくソルフェージュできているが、伴奏から導音拾って歌い出すのが難しそうと感じるところがあった。音が取りにくい曲が多い。名古屋大楽ではそれは感じなかったけれど、大阪で気になったのはそこ。
楽曲で三つの階層を表しているなと思ったけれど、音楽が多少わかってないとそれも感じにくいこと。黒人の場面はブルースが聞こえるな、とかね。ブラックフェイスを用いて視覚的な分かりやすさをやる、を排除すると、階層の違いを理解するのに知識を要するのかもしれない…
別作品の話だけれどヘアスプレーでもそれは感じて、ブラックフェイスではなく衣装と楽曲で分けてたのはラグタイムと同じだったけれど、ヘアスプレーでは果たしてそれがどれくらいの人にわかったかな…というところ。ミュージカルは一部の教養ある人たちのためのものになってしまうのかな、とか…これを書ける自分もまた特権的な立場ですが。

楽曲でいうと、一幕でコールハウスがマザーの家でピアノ弾くのリクエストされるとこ、おじいさんからミンストレルソングをリクエストされて「ミンストレルショーは侮蔑だ!」みたいなの言うとこがあって。
ミンストレルショーは白人が顔を黒く塗って黒人の物まねをして歌うショーで、そしてそれをやる白人は、白人の中でも階層が低い移民が多かった、を思うと今の世の中と変わらないんだよね。
顔を塗りこそしないけれど、特権的な階層とされている人たちの中でも地位が低い人たちが、自分より弱い立場のものを真似て滑稽な仕草をする。今のインターネットだよ…その侮蔑はどこかで止めなければならない。

全体を通して

全体を通して三つの階層が重なり合う群像劇であり、それはともすると観客ひとりひとりの特権性(マジョリティ性)と重なるものでもあり、私にとっては「自分の属さない階層への眼差し」を再認識する機会でもありました。でも今の社会構造は、自分のマジョリティ性にもマイノリティ性にも気づきにくい仕組みになっているし、この観方はなおさら共感を産むものではないかもしれない。

マザーは裕福な白人家庭の奥様でリベラルであろうと努めているけれど、リベラルさを務めている人間ほど自分の内面化した差別意識に気づかないもので、常に自分の特権を省みてもそれでも鼻持ちならない特権的な物言いになるのがこの立場の人と思う。ファーザーは高学歴ノンポリ男性だけれどそれは高学歴で正解のルート(国威発揚の工場経営をやる)を歩んできた人間なりにそうとしかなれなかったと思うし、でも最後ファーザーはコールハウスに歩み寄って、コールハウスの味方になった。ファーザーのノンポリの姿勢はきついなと始終見てたけど、ファーザーなりに人間の善性を信じて生きてその時その時の正解をやり続けたんだろうな。
善性のある人間であれば差別をしない、は成り立たないけれど、経験と想像力と思いやりで人はなんとか行動を変えられる、は成り立つかもしれない。

そのほか

フォードの畠中洋さんのダンスがキレッキレで元気でよかった。原作読みたいしサントラが欲しいね。
なんか言い残した気がするから追いで感想文かけたらいいな。

感想 よかったらマシュマロください 続きを書けとかそういうのでも

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