傷と旅と出会った人たち 2024.4.28VIOLET@シアター・ドラマシティ感想文

ミュージカル

ネタバレしてます!だらだら長文です!6,000字超えてます!なんで自分がそう思ったのか、を掘ってます!
わりと表現が気持ち悪いと思いますし、言葉遣いも乱れている文章です。真面目に書いている風で突然浮ついたバカの感想が発生しています。それでも大丈夫なとき、お読みくだされば、嬉しいです。よろしくお願いいたします。


結構爽やかに鑑賞したし、藤田俊太郎演出だいぶ好きかも…となってます今。観てから感想書くまで少し間が空きましたが、かえって整理がついていいです。
女の子が成長していく旅はシスターフッドのほうがええのかな、でも現実問題同じ状況でたまたま出会ったのが男性であれば男性に救われる話もそれはそれでありやな、という感じで観ております。まあそれは、自分がそういうところあるからね…(男性比率が高い業界にいるので、助けてくれる人は割合的に男性が多いみたいなこと)
人の痛みと傷、優しさの中の無意識の棘、厳しさの中を解くと労りだったり優しさが出てきたりするよね、のリアリティがあるこの物語が好きです。人間がそう簡単にルッキズムから解放されないところも含めてね。はい、また観たいね。
藤田俊太郎は東啓介好きですか?奇遇ですね私もです、そろそろFC入ろうかな、そんな感じです。

ヴァイオレット屋比久知奈さん、ヤングヴァイオレット水谷優月さん、アフトクで屋比久さん東啓介さん立石俊樹さん・MC樹里咲穂さん回でした。アフトクも楽しかったね。

本当に公式のあらすじだけ観て、なんとなく観ることにした…というあいまいな動機で客席にいました。とんちゃんいるならまあ…みたいな。

STORY

1964年、アメリカ南部の片田舎。
幼い頃、父親による不慮の事故で顔に大きな傷を負ったヴァイオレットは、
25歳の今まで人目を避けて暮らしていた。
しかし今日、彼女は決意の表情でバス停にいる。
あらゆる傷を癒す奇跡のテレビ伝道師に会う為、西へ1500キロ、人生初の旅に出るのだ。
長距離バスに揺られながら、ヴァイオレットは様々な人と多様な価値観に出会い、
少しずつ変化していく。長い旅の先に彼女が辿り着いたのは―。

ミュージカル『VIOLET』2024年公演|梅田芸術劇場 STORYより引用

これだけで、時代的に黒人差別…とかヘアスプレーも同時代だなとかを思い出しつつ、傷言われてもどんなもんかねくらいの、本当に軽い動機。でも、ちょっとした台詞の一つ一つで時代背景や登場人物個人個人の抱えるもの、心の動き、人間ってそういうところあるよな、が伝わってきて、私にとってはあらすじはこの程度でよかったのかも。

ヴァイオレットについて

ヴァイオレットは顔に大きな傷があるけれど別に謙虚でもないし愛想があるわけでもない女の子で、でもそこが好きだな~と観ていました。なにか傷があるものが謙虚で優しいといったものは見飽きたのだ。傷があるものが謙虚で優しくあってほしいという幻想込みで飽きているから、屋比久さんの役作り込みでヴァイオレット結構好きな人。アフトクでの役作りの話も含めるとより意図が分かりやすかった。朗らかな女の子じゃなくてよかった~としみじみ思う…
実際自分が1960年代のアメリカの南部にいたら、テレビ伝道師を見てなんでも治せる!って信じちゃうだろうし、何に・誰に出会うかのタイミングって選べないしな、を1,500kmの旅を見ていて思った。自分が同じ立場だったら、テレビ伝道師じゃないもっと望ましいもの、フリックやモンティのような男性でないもっと好ましい人を選んで、そもそも父親との関係なんとかなってたか?っていうとまあ…難しいすね。
ヴァイオレットの変化のカギになる人物が男性2名(フリック・モンティ)で、その男性2名を通して、傷の原因となる父親と本当に話したかったことに気づいたり、は分かるなと思った。
色々曖昧ですっきりしないのとちょっとセクシャルな場面もあったから、そういうところウケが悪いのかな、とも感じたけど、生きてくのってすっきりしなくて曖昧で断罪できなくて、ぶつかってもしようのないことのほうが多いから、それも私はリアリティと思うよ。

ヴァイオレットは母親が残した聖書を信じ、テレビ伝道師を信じていたけれど、インターネットがあって移動手段が多い今ならいざ知らず、南部の片田舎で自分の傷のことや周りとの付き合い方(傷のことで嫌なことを言われたり、恐れられたり、酷い扱いを受けたりを含む)を考える中で拠り所であるのが聖書であり、テレビ伝道師であり、自分を救うのは傷をなくすことだと信じ込むのは無理なくて。
バスでの旅の最初のほうで、旅の目的である「テレビ伝道師に会って顔の傷を治してもらうこと」を話してフリックとモンティに笑われるけど、信じ込んでいるから笑われても平気で旅を続ける。弱気に振舞って慰めてもらうとか、自分の痛みばかりに目を向けるのではなく信じ込むのを選んだのは、これ以上傷つきたくないから、目的だけに目を向けている感じ。片田舎の狭い世界で出会ったものは自分が信じていた以外の世界で、でもテレビ伝道師に会えても、結局傷は治してもらえなかった。そこに向き合えるまでは、時間がかかったね。傷がなくなって綺麗になれば上手くいく、は等身大の女の子が考えることと思うし、いや20代過ぎてもいくつになっても「これさえなくなれば上手くいく」を考えて信じることは誰にだってあるし、でもヴァイオレットにとってはそこが大きかった。

テレビ伝道師について

ここでテレビ伝道師の原田優一さんがまたいい。私は原田・うさんくさ・優一先生と呼ぶことがあるのですが、クラブセブンとかでものすごいアピール力かと思いきや何をさせても全部丁寧で、様子がおかしくても安心して観ていられるところが大好き。原田先生のオタクやるために東京転居する人もいそう。
照明に音響にと煽るテレビ伝道師最高だよ。テレビ伝道師が壁に映る演出も最高だよ。でもヴァイオレットの傷については、「うまく付き合うことだ」と現実的なアドバイスをしている。
テレビ伝道師のモデルはオーラル・ロバーツという実在の人物で(英語wikiはこちら)、活躍した時代も1947 ~ 1993 年と、第二次世界大戦終戦後からそれこそヴァイオレットの1960年代を含み、人種差別もなにもかも今より激しい時代で、どれだけ人々の心の支えになったことかと思う。テレビ伝道師の台詞に「KKKと戦った」みたいなのもあって、その一言でどれだけ彼が過酷な中で教えを広め、人を救ってきたのかを感じさせる。ヴァイオレットは物理的な傷も治せると思い込んでるけど、テレビ伝道師から見たらそんなことは些細なことで、もっと大きな課題であるとか救うべきものがあるとも思ったのかなあ、まあまあ塩対応だったから…

この辺り、日本人ってそんなに信仰心がはっきりしてなくて曖昧だから伝わりにくいところだったのではないかな。宗教にしろ差別にしろ、目を向けないよう巧妙に誘導されてるからなぁ。依存症についての構造、とかかじっておくとミュージカル鑑賞の役に立つとたまに思うけど今回がそれ、しかしこの話は依存症を描いているわけではないのでわかられにくいなぁ…ここは自分のブログなので思ったこと書いてますが。

フリックとモンティについて

そもそもなんでこいつらに救われるねん、のツッコミ絶対入るな~私は好きだけど~…と思いながら観てたのがフリックとモンティ。とんちゃん演じるフリックは黒人兵士、立石俊樹さん演じるモンティは白人の中でも最下層にいる兵士で、モンティは最後ベトナムに送られる。
物語冒頭で苛烈な差別があったということが壁に写されて示されるし、黒人差別の激しい時代はベトナム戦争があった時代で、ミス・サイゴンとも重なるし、同時にドッグファイトとも重なる。
ヴァイオレットはフリックとモンティどっち選ぶねん!はっきりせい!という状況になるし、ヴァイオレットとフリックは互いにまあまあ傷つけあうけどフリックのほうが誠実だからフリック選びルートがええなあとか(乙女ゲーか?)、途中までおれがとんちゃんをしあわせにしようかな?などのバカの感想を発生させていたのですが(本当に、愚か)、ラストシーンがちょっとヴァイオレット・フリックルートの光が見えてよかったです。
ヴァイオレットが、黒人であるフリックの見た目のことに言及してフリックが席を立つところでやっとヴァイオレットが自分が人を傷つけることがあると気づく(自分も見た目のことで傷つけられてきたから、そんなことしないと思っていたのに)のが、よかった。途中ヴァイオレットに本質的というかすごい厳しいこと言うけど、本当にヴァイオレットのこと思っているからそう強い言葉になるのかなあとか…

私はベトナム戦争について知るきっかけがミス・サイゴンとドッグファイトなんだけど、ドッグファイトはベトナム戦争出征前の兵士が「パーティーに女の子を連れてきて、それが一番イケてないブスだったら勝ち」というゲームのようで、モンティがヴァイオレットに近づいた動機ってそういうことも含むのかな、と思うなどしました。思ったより本気になってたっぽいが…
ヴァイオレットが一番つらい時に自分はそばにいない、をサラッと言えるモンティはある意味酷いけどある意味わかってやってるからまだマシなのかな、傍観者としてはもう絶対にフリックを選んでほしいが…
あの時代の兵士って今よりもずっとホモソーシャルな価値観で生きていただろうし、フリックとモンティもそんな感じでつるんでいただろうし、でもちょっとそこに違和感を覚えて、フリックもモンティもアクションを起こしていったかな、と感じられた。いやでも、ヴァイオレットがフリックよりモンティを選んだと気づいてしまった時の台詞一個一個きつかったな、「あいつがお菓子を持ってくるのはそのほうが楽だからだ」「お下がりなんて」とか。そこがすごいひりひりしてた。「手紙書いてくれるのか?」で嬉しそうな顔してたのにな…とんちゃんの、痛みが分かる芝居が好きだ。

戦争って、人を駒として扱うことって本当に悪いことで、モンティは自分が駒にしかならない/なれないと分かっていて自分のこともヴァイオレットのこともさして大事にしていないし、駒としてベトナムに行くことは生きて帰ってこれないことまで含まれるだろうから、その構造の中で出来る最大限の人間同士の付き合いをモンティはやってたのかな、と思う。
フリックもモンティも、階層の構造上どう頑張っても天井が見えていて、諦めて生きざるを得なくて、でもそんな中でヴァイオレットと出会えたことは思いがけない救いだったのではないか。ヴァイオレット、フリック、モンティそれぞれ傷(見えるのも、見えないのも)があって、だからそれぞれに寄り添えたのではないか。

と、ここまで書いていて、ミス・サイゴンの時期にPTSDの話が流れていたけれど、第二次世界大戦とPTSDの話はどっかでしっかり読みたいな、と思った。導入としてよいだろうと思った記事を貼ります。PTSDとアメリカ文学|第二話 教養と看護

アンサンブルのいない2時間超の舞台

そういやこの舞台休憩なし2時間なんだった、長かったね。そしてアンサンブル不在!というわけで上記の方々以外のことを書きます。
saraさんの力強い歌声が、気負った感じなくその場にあるのがよかった。歌い方で黒人を表現しているのかなと思った。
若林星弥さんはまず名前がいいなと思うのですが(星ってつくのいい)、白人として黒人を差別する役はしんどかろうと思う、コーヒー売りのとこでカウンターで「黒人でも軍服着たら一人前の兵隊になるんだな」みたいに煽るとことか。
森山大輔さんはビリー・エリオットの印象が強いけれど、今回は歌声多めで、若林星弥さん、spiさんと歌ってるとこもあったかな、声の相性いいなと思いました。
谷口ゆうなさんのルーラは信仰心のほうがテレビ伝道師への思いより強いのが面白かった、樹里咲穂さんの老婦人は親切面ウザおばあさんでこういう人いるよな~という…はい。私も親切心で結婚したほうが身寄りが出来ていいとか言われることがあるけど、その経験込みで、はい、「いるよな~…」になります。

あと、バンドがちらちら見えるのが楽しかった!物語が終わってカテコの時に、ハンディカム持った人がバンド撮影してそれが壁に映るのがよかった。スクリーンじゃなくて壁があって、盆は回って椅子は並んだり舞台上から消えたりするけど大きい転換がないので、壁に写すものだったり、壁の窓から顔を出す人だったりの使い方が楽しい。

父親の影

spiさんの父親は父親、というそのまんまの役名ですが、ミュージカルではっきり父親と娘が対立する作品ってそんなない気がして、かつ時代背景も相まって演じるの難しい感じがありました。spiさんはいい歌を歌いますね。
トラウマ治療のワークの中に原家族とのことを追う、があったりするんだけど、ヴァイオレットが旅の中で父親に言いたかったことや父親との記憶の整理がついていくのが、旅はセラピーで、セラピーには時間がかかるものだと思いました。ついでに言うと私にとってVIOLETを鑑賞すること自体がセラピーになっていたのは嬉しい発見です。
記憶の整理をつけるとか向き合うのって難しくて、人によっては一人でやらず公認心理師や臨床心理士などプロと一緒にやったほうがいいことなんだけどね。

アフトク思い出し

まあまあしんどく、しかし爽やかに観、アフトクも楽しかったです。
屋比久知奈さん、東啓介さん、立石俊樹さん、樹里咲穂さんそれぞれ同じ大きさの椅子に座って話してたのにとんちゃんだけ明らかに全体的に余っており、でかいですね…と思いました(それは本当にそう)
樹里さんが質問をして3名が答えていく形式で、覚えている範囲で書きます。

Q.3人のその後はどうなる?
屋比久ちゃんA. VIOLETのラストは余韻があるものだけどあの後ヴァイオレットとフリックがうまくいっても、いかなくても、いい思い出になるのではないか
立石さんA. ベトナム戦争に行っても生きて帰ってきて…(まで言って樹里さんからいや絶対ベトナム戦争で死んでるってwと戦死ルートを推されるまあまあ不謹慎なノリであったw)
とんちゃんが何喋ってたか覚えてないので、元気が出たら後で探そう…

Q.旅公演で絶対持って行くものは?
屋比久ちゃんA.荷物を極力まで減らしているので…でも楽屋出るのは早い、なんならお客さんと一緒に帰っていることがある。いい評判が聞こえてくると嬉しい。
とんちゃんA.カメラ。各地で写真撮ってるらしい。梅田で撮ったのは草(って言ってたかな…草?)
立石さんA.入浴剤。ホテルのユニットバスでいい入浴剤使ってるらしい。
とんちゃんから、お湯がぬるくなってきたらどうするの?って聞かれてその時はお湯を足すそうですが、足したら入浴剤の効能薄まっちゃうじゃん!てつっこまれてるの面白かった。

困ったなアフトク面白かったのにこれくらいしか覚えてないや、樹里さんがめっちゃ突っ込んでてよかったです。SNSで宣伝せい言われてたのにブログ書くの大阪終わった今でごめんね。

公式な映像とか記事とか

最近観る前に予習する暇なくて、いっつも観た後になりがちです。時代背景とかまでしか調べられないや。

2019年の藤田俊太郎インタビュー
ミュージカル「VIOLET」藤田俊太郎 / トム・サザーランド インタビュー&初日レポート – ステージナタリー 特集・インタビュー

大事なのは引きの強さ~っていいですね、今更見る舞台映像ダイジェストの良さ。

観てよかった

こうして父と娘の関係を描く作品に出会えたの良かったな、私は好きだよ。
藤田俊太郎演出で言うとNINEは母と息子の関係の話になってたし、私には助かる感じ。(オタクはすぐ助かる~って言いがち)
自分の傷とケアは物語の中にヒントが落ちてることもあるね。

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